真雪さんよりレンたる。


 始まりはどんな形をしていたのか、失ったときのことを覚えているのか、はたまた手に入れたということ自体思い込みでしかなかったのか。
 「目、閉じていいなんて言ってねえだろ。ちゃんと見ろよ」
 残酷なまでに甘く囁く彼の手は、自ら身を焦がす太陽を見下すかのように冷たい。その手に触れられるたび、私は意識を逃がすようにこんなことばかり考える。
 「蛍」
 私の耳を噛み、長い腕で肩と腰を抱いた彼が姿見に映っている。左手を肩から首、首から頬へと、ひとつひとつに熱を宿して這わせていく。鋭い眼差しは鏡の中の私を捕らえたまま、絵画のように動かない。もう一度きつく目を閉じると、眼鏡を取られる気配がした。
 「お前、今日でいくつになったんだっけ」
 「…そういうことを聞くのは、あまり紳士的ではありませんよ、レンさん」
 苦し紛れにそう言うと、彼は私の頬をゆっくりと撫でた。
 「この状況で紳士だなんて口にするのは、お前だけだよ」
 彼は、私を憐れむことを何よりも好む。刻み込むように、植え付けるように、冷めた眼差しと嘲笑を含んだ声で私の中に入り込む。そうして名前を呼ばれるたび、硬い指先で肌をなぞられるたび、頭の芯が奇妙な熱を持ってぼやける。そうなればもう、麻痺した思考は与えられる快楽に身を委ねるほか無い。
 「あんまりそそる声出すなよ、隣でマナ寝てんだろ。俺は別に構わないけど」


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