真雪さんより真梨新菜。コチラの漫画の続きです。


 身体の震えが止まらなかった。極寒の地に裸で捨てられたようにがくがくと、四肢に自分の意思が伝わらない。痛覚が機能していない、それは確かだ。私が気に入らないのは、機能しないのが痛覚のみだということ。どうせなら、いっぺんに全部失ってしまいたかった。身体だけじゃなく、こころの痛みも止まってしまえばいい。誰の温度も感じなくなればいい。そうしたら、涙の意味なんてすぐに忘れてしまえるのに。
 「にい、な、」
 新菜は赤くなった頬を冷やすわけでもなく、ただじっと外を見ていた。私のか細い声は聞こえているのかいないのか、こちらを向く気配は無い。
 「ごめんなさい、怒らないで、叩くつもりじゃなかったの、ただ、」
 「ただ?」
 無機質な声にびくりと竦む。紅に染まり始めた空を見つめたままの新菜の言葉は、ピアスのピンよりもずっと鋭利に尖っている。
 「ただ、なに?」
 叩いたのは私の方なのに、唇は言葉を紡ぐことに怯えてしまった。あ、く、と無意味な息ばかり洩れる。
 「ピアス空けたいのは本当だよ、新菜とお揃いのがしたいって玲二にも言ったし、新菜が開けてくれるなら凄く嬉しいし、でも、急だったから、その…びっくりして…」
  脚を組んだ新菜の、ペティギュアが施された爪先に目を逸らした。ああ、新しい色買ったんだ、前のはもう飽きたのかな。
「どうして今、棗先生の名前が出てくるの?」
 「どうして、って…」
 まただ。生まれてからずっと玲二が傍に居たせいで、玲二があんまりにも私の日常に侵食しているせいで、無意識にその名を口にしてしまう。さっきだってそうだ。新菜といるこの時間に、玲二の話なんてするべきじゃなかった。
 「新菜ごめん、違うの、本当は玲二なんてどうでもいいんだよ、私には新菜がいればいいんだから。信じて、お願い。」
 新菜が私だけを見てくれる保証なんて、一体どこにあったんだろう。飽きたマニキュアのように捨てられる可能性の方が高いことぐらい、少し考えれば分かる。
 「信じる?」
 心底おかしいといった様子で立ち上がり、新菜はベランダに通じる窓を開けた。外に出ると細い腕を振り上げ、黒いピアスを放り投げた。私は身動きひとつ取れず、ただ一連の動作を見守っていた。
 新菜がゆっくりと振り返ると、片側の耳だけについたピアスが夕陽を反射しきらりと光った。
 「だめよ。嘘つきさんは、信じてあげない。」
 赤い赤い夕焼けが、新菜の嬌笑を彩った。私はもう、今すぐこの赤に看取られてしまいたかった。