ひせーさんよりレン×蛍戴きました。


――あの人は、確か1時に此処にと言ったはずだった。


  きっとまた、来週も


つい没頭していた文庫本からついと腕時計へと視線を移すと、その短針はもう3に到達しようとし

ていた。
あと少しで読み終わるだろうそれに栞代わりの小さなメモを挟み、顔を上げたところで視界に入る

のは待ち合わせなのだろう見知らぬ人々が笑顔で去っていく様子ばかりで、期待していなかったと

はいえ溜息が漏れる。そうやってやっと寒さを自覚し震える体に身を預けていたベンチから立ち上

がりかければ、計ったように鳴った着信に思わず眉を潜めた。

「…レンさん。」
「あ、もしもし蛍?お前まだ待ってんの?今からでいいならそっち行けんだけど。」

…彼のこの絶妙なタイミングは一体なんなのだろうと、私は時折考える。申し訳なさや罪悪感の類

を一切感じさせないこの言葉も、彼の目的も。
鼓膜震わす低音の向こう、僅かに拾う声はおそらく媚に満ちた女性のものだろう。耳に意識を向け

ずとも、彼の電話にはいつも人は違えど似たような声色が混じっている。

「…いいえ、もう待ってませんよ。」
「そ、悪ぃね。」

くつり、言葉だけの謝罪と共に彼が笑う。
性の悪い彼のことだ、もしかしたら何処かに潜んで嘯く私を見ているのかもしれない。そうであれ

ば余計、辺りを見回すことなど出来なかった。

「ご用件はそれだけですか?」
「あぁ、また来週な。今度はちゃぁんと行くから、待っててね?蛍ちゃん。」


先週と全く同じ言葉と共に同じように切れた携帯を、先週と同じように鞄に仕舞い今度こそ立ち上

がる。
見上げた空と周りの人々は何とも穏やかで、一人佇む自分はなんと滑稽なのだろう。
思わずくすりと漏れた笑みはとっくに麻痺していた部分に僅か、沁みた。


もう行きつけのようになってしまった喫茶店で文庫本の続きを読もう。
きっとまた来週も、私は同じ場所にいる。