学校からのプリントだと言って貰った紙束に目を通すこともなくゴミ箱へ放り投げた おかえり、と出迎えてくれた新菜はそれを不思議にそうに見つめて、なぁに?とゴミ箱の中からそれらを拾い上げる 「真梨香、いいの?プリント」 「…私には必要のないから」 ふーんと大して興味もなさそうに呟き、新菜はプリントをゴミ箱に捨てた 時々、新菜の残酷さを垣間見る時がある。誰かの手によってまとめられたその紙束はゴミになった。ゴミ箱の中でまるで溺れるように散らばった紙たちは――きっと私だ 「新菜がクラスメイトなら良かった」 「どうして?」 見上げてくる瞳がぱちりと瞬いて、宝石のようなその美しさに魅せられる 「だって新菜がクラスメイトだったら、毎日一緒にいられるのに」 新菜と同じ授業を受けて、出された宿題を一緒にして、テスト前には図書館で残って勉強なんてしてみたい。お昼には一緒にご飯を食べるんだ。屋上は風が強いから、中庭ならいいかもしれない。あそこは温かいし、気持ちがいい。一緒に帰って、寄り道なんてしてみたり――なんて幸せな毎日だろう そんな叶わない夢を語ると、新菜は困ったように笑って。ソファーに身を沈ませれば、新菜も隣にそっと座る。隣に沈む重みが伝わる 「真梨香は…学校が嫌い?」 「嫌い…じゃないよ、でも苦手かな。勉強は…嫌いじゃないけど…でも、」 最後に学校に行ったのがいつだったかも思い出せない 思い出も、思いれもない。セピア色の毎日はひどく昔のようにも感じる 「私がいたら真梨香は学校に行った?」 突然のそれに答えられなかった 「え…?」絞り出した声に乗せられたのはたった一文字 「真梨香は私が学校にいたら来た?」 「…新菜がいたら行ったかな」 新菜はそっと私の手を握った。新菜の手は私より少しだけ小さい 細くて白い指、ムラなんて見当たらないくらい綺麗に塗られたマニキュア、触れた体温。全部に心臓が跳ねた。新菜と手を繋ぐのは初めてじゃないのに、初めて恋を知った子どもみたいに身体が熱くなるのを感じる 「…たら、よかった」 「え?」 「1年早く生まれたらよかった」 握った手に力が入る 違う。違うよ、新菜。違うんだ。 伝えたいことがあるのに、うまく声にならなくて、私はただ顔を横に振った 「…今、ここにいてくれるからいいよ」 新菜は私がついた嘘に気付いたかもしれない 学校は嫌いだけど、たまに行きたくなること。自分を理由に行けないことがとても悔しいこと。新菜にもっと傍にいてほしいこと 本当は、本当は、本当は―― 「新菜が今隣にいてくれるだけで、幸せだよ」 そっと微笑む新菜はありがとうと囁く 近づく距離と、触れ合う体温に私はそっと目を閉じた |