―I don't want a lot for Christmas, there is just one thing I need... 苦しげな呼吸の合間、唐突に紡ぎだされたメロディに棗は眉を顰めた。 「大人しく寝ていないか、喉に悪い」 咎める声に構うことなく、横たわる少女は蒼白の顔でぐったりを瞳を閉じ、 そのくせ色を失った薄い唇だけは微かに動いて歌を紡ぐ。 ―I don't care about the presents, underneath the Christmas tree... 切れ切れに口ずさむ声は低くしゃがれて、 本来の曲の持つ煌びやかな喧騒はどこへやら、いっそ物悲しい響きを帯びている。 「真梨香」 幾分かきつい声音でその名を呼べば少女は物憂げな様子で目を開き、 熱で潤んだ漆黒が縋る様に棗の視線をとらえたので、棗は一瞬息を呑んだ。 「にいな、」 と掠れる声で少女は愛しい人の名を呼ぶ。 「約束したんだ」 少女が目線だけを頭上に向ければ、枕元には右足だけの靴下が二つ。 色違いの毛糸が雪の結晶を形作って飾るそれを視界の端で捕らえて、 苦しげであった少女の表情はいくらか柔らかく崩れた。 「治ったら買いに行けば良いだろう」 「うん」 その瞳を覆うように乗せた棗の手の下で、少女は小さく頷く。 その仕草が妙にあどけなく、棗は少女と自分の間で過ぎ去った時を想った。 ―I just want you for my own, more than you could ever know... れいじ―相変わらず途切れ途切れに口ずさむ歌の合間に少女は棗の名を呼ぶ。 「玲二が欲しいものは?」 「プレゼントでもしてくれるつもりか」 「靴下くらいは買ってやってもいいよ...サンタがくるかもしれないし」 搾り出すような呼吸とか細い声で、それでも少女は道化てみせる。 棗の手の下で柔らかな頬が一瞬、笑ったようにひくりと動くのを感じた。 ―Make my wish come true... 「それでは直接手紙を書こう。お前が寝ている間に」 さらさらとした髪を撫でつけてやると、少女はもう一度微かに頷いて眠りに就いた。 今にも途切れそうな心許ない寝息を漏らす少女の寝顔を見つめて、 棗は歌の続きを思い出す。 もしも、願いがかなうのならば―続いて考えたその一節は過ぎた願いなのかもしれない。「どのみち靴下にははいりきらない」 歌の続きを口ずさむ代わりに、甘やかな感傷を抱いた自分を嘲った。 ―All I want for Christmas is You . |