真雪さんさんより玲真梨新菜小説戴きました。
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 「せっかくの誕生日なのに、浮かない顔してるのね。」
 ベランダから外に逃げる煙の白さに、空気がよく馴染む季節になっていた。常に泣き出しそうな色をした空に溶けるような、新菜の声に少し驚く。
 「来てたんだ。」
 「ごめんね、鍵開いてたから勝手に入っちゃった。あんまり不用心だと、また棗先生に怒られちゃうよ?」
 「・・・関係ないよ、あんな童貞。」
 私には新菜がいればいい。
 触れる手で、見つめる眼差しで、私の全てを使っても全部は伝わらない。腕が壊れるぐらい抱き締めても、喉が潰れるぐらい叫んでも、枯れることのないこの気持ちは肉体が滅びれば一緒に消えてしまうものなのだろうか。
 「ふふ、酷い言い草ね。」
 くしゅっと仔猫のようなくしゃみをする新菜に思わず顔が綻ぶ。あれもこれもと着込むのが習慣になってしまった私とは対照的に、新菜は見た目を優先してかいつも薄着だった。
 「冷えるよね、中に入ろうか。」
 小さな肩を抱き、室内に戻ると温度差に頬と耳が赤く染まるのを感じた。
 「ねぇ真梨香、プレゼント何が欲しい?」
 ぽふん、と先刻まで私が寝ていたベッドに新菜が横になる。小柄な彼女が伸ばす四肢を求めて噎び泣く夜の感覚が、誕生日という単語を聞くたびに生々しく蘇るようだった。
 「あんまり持ち物を増やすのは好きじゃないからかな、欲しいものってほんとに思いつかない。」
 寝転ぶ新菜の傍らに腰掛けると、艶かしいほどひやりとした手が右腕に絡みついた。
 「小さいときとか、何もらった?」
 無邪気な声が忌わしい過去の記憶を揺さぶる。厄介な身体を疎まれ、呪われ、蔑まれた生があの家で祝われることは有り得ない。
 「あんまり行事とか、大事にする家でもなかったから。新菜、それよりさ・・・」
 「じゃあ、真梨香。」
 言葉を遮られ、腕を強く引かれたかと思うと壁際に追いやられていた。吐息がかかるほど近くなった新菜の顔に、治まったはずの呼吸がまた乱れる。
 「十六年分のプレゼント、あげるね?」
 ちゅっと小さく音を立てて、ふっくらとした唇が頬に当てられた。
 「キスって、する場所によって意味が違ってくるんだって。知ってた?」
 高潔な黒猫が夜道に光らせる瞳のような輝きを前に、何かを恐れるかのように強張った身体を見て新菜はくすりと微笑んだ。
 「今のは、親愛。」
首筋、鎖骨と降りていって、分厚く着込んだセーターに顔を埋める。繊維を通して新菜の香りが飛び込んできて、胸が妙にざわついた。顎にかかる柔らかな黒髪がくすぐったい。
 「今日は、脱ぐのはやめとこうね。熱、下がったばっかりでしょ?」
 ウォン、と鳴る暖房が、逃げてしまった蜘蛛のことを思い出させた。