私を抱く時、彼の瞳は夢見心地で、閉塞的で、必ず焦点が合っていない。虚ろな表情がよく映えるその顔が、本当に求めているのは誰なのか、生まれる前から繋がっていても私が知る術はない。 「瞳子…ごめん、痛かった?」 「え、あぁ…別に。」 問われて初めて、首筋に付いた歯形に気が付いた。優希には性癖のひとつに嗜虐の傾向がある。だが、それはあくまで傾向だけで、縛ったり痕を付けたりとその程度だ。一生消えない傷や、手足の切断にまでは至らない。前者はともかく後者のような状況に陥れば一人での生活が困難になるのだから、経緯はどうであれ優希は喜ぶかもしれない。身体中に粘りつく甘い香りに苛まれながら、そんなことを考えていた。 「甘い、ね。」 弾む息を整えようともせず、優希は私の鎖骨のあたりにのせたクリームを舐め回す。舌の生温さと安っぽいチョコレートの匂いが、ゆっくりと感覚を鈍らせていった。 「瞳子、チョコ好きだもんね。」 そう言って彼がケーキの箱を持って嬉しそうに帰ってくるまで、私は自分たちの誕生日を忘れていた。いくつになったんだっけ、と上着を脱がされながら数えていたら、もう十七だねと優希が言った。 「来年になったら、すぐ入籍する?」 「高校生のうちは駄目なんじゃないの。」 「黙ってれば分からないよ、そんなの。」 紙切れ一枚を役所に出して、何かが変わるわけじゃない。思いつきで口にしたその行為を実現すれば、この罪は少しでも和らぐのだろうか。思いの大半は言葉にならずに消えていく。 「優希、それは痛い。」 「ごめん、これは?」 「痛い。やだ。」 立て続けに拒否されると、優希は捨てられた子犬のような顔をする。ダンボールの中で雨に打たれて泣いているような。 捨て犬が本当に悲しいかなんて分からないのに。厄介な飼い主から解放されて喜びに満ちた雄叫びを、今はまだか細くしか鳴くことでしか表現できないだけかもしれないのに。 「瞳子、誰のこと考えてるの?」 「…誰だったらいいの?」 瞳を名前に持つのは私の方なのに、優希はあまりにもその色を容易く変えるから。戸惑いだけ覚えて彷徨っていればいいのに、私がもう見えない夢を見つけては打ちひしがれるから。 「こんな使い方したら、ケーキ全部なくなっちゃうよ。」 机の上に置いたケーキは切り分けられず、表面のクリームだけを掬い上げてはお互いの身体に塗りたくっていた。抱く嫌悪感はそこには無い。 「優希、これは食べ物なんだからちゃんと食べなきゃ。」 肩のあたりで塊になっていたチョコクリームを掴み、私の上に跨る優希の口の中に突っ込んだ。 「とうっ…!ぐっ…!」 「今度は吐いちゃダメだよ。ちゃんと全部飲み込んで。」 指の先が口の奥に当たる。中の温度はいつだって、この瞳を冷やす要因にしかならない。 |