細い指は愛らしく 「喉が渇いたな……ちょっと水を」 僕の言葉を遮ったのは、彼女の指だった。華奢な彼女らしい五本の指がシャツをぎゅっと握る。 「すぐに戻ってくるから、城崎さん」 「うん」 返事とは異なって、その指は僕のことを離そうとしない。寂しいのか、愛しいのか、それとも他の何かが原因なのか。思うようにいかない現実に、不可解な彼女の行動に、思わず目を細めた。 「はは、寝ぼけてるの?」 さらりと髪を一撫でして、眠りに戻るよう促す。それが邪険にしているように思えたのだろうか。何かを訴えかけるような表情が上り唇が誘う。 「せんせい」 拙い発音はわざとだろう。彼女は何かを手に入れたいともがき、引きとめたいと願う。どこかへ行ってしまわないようにという想いは、今シャツ越しに背中に触れている指が一番表わしているのかもしれない。 「ん、どうしたの?」 言えば叶えてあげる。それは僕たちの日常だった。 だけど、いつまでもそうしてはいられない。君はその細く頼りない指を、僕を逃がさないようにと滑らせる。祈りにも似た感情ならば介在しうるのかという命題。 それでも僕は、知らないふりをしてあげる。それは大人の役目だから。君にはできないことだから。 気づいてるくせにと仄かな恨みを織り交ぜた心は視線には反映されない。君はそんなことよりもどうしたら繋ぎとめられるのかということに夢中。そうは見えない外見で中身を覆い隠しているけれど。 これ以上は得策ではないと思ったのか、単に気が変わったのか。 するりと離れた指に僕は微笑んだ。 「水を飲んだら帰ってくるよ。先に寝てて」 聞きわけよく頷いたので、ベッドから下りてミネラルウォーターを飲みに行く。ごくりと鳴った喉が静かな夜には少しうるさかった。飲み干すには至らなかった水を冷蔵庫に戻すと、あの場所に戻るために足を踏み出す。その行為はどうしてだか心臓にいつもと違う鼓動をさせた。 ベッドには君が寝ている。その指は緩く折り曲げられ、何も掴んではいない。僕は彼女を起こさないように、そっとそれに居場所を与えてあげた。 悲しくなるほど白い指は、まるで君そのものだ。 |