藤咲さんさんより要蛍小説戴きました。


九藤咲織さまのweb漫画、『イエロウズ』の二次創作。
蛍→要→マナ前提の要x蛍。


捏造もはなはだしいので、原作のイメージを壊されたくない方は要注意。









『まちがいさがし』




私とあの人の相違点を探してみようか。

例えば、今彼が貪っているこの唇。
春の桜の花びらの色をしたあの人の唇はもっと繊細で、
犬歯が軽く掠めただけでも血を流しそう。
蹂躙するように舌を絡められて、煙草の香りの苦いキスをされたとしても、
きっとあの人の唇は砂糖菓子のように柔らかくて、甘いのだろう。

例えば、彼の指先が掬ったこの髪。
金に近いような薄い茶色をしたあの人の髪の毛とは違って、
墨でも零したように黒く長く引く私の髪は、
彼の指を断ち切ろうとでもするように強く絡みつく。
きっとあの人の細い髪の毛は、指先に少し力を込めれば容易く切れてしまう。

例えば、彼の大きな手がなぞるこの肌。
薄闇の中でもそれは青白くて、酷く不健康な色をしている。
あの人の肌はもっと透き通るように白くて、
そっと触れれば果実が熟れる様に色付くのだろう。
血の代わりに蜂蜜とミルクが流れているように甘やかに香る肌。
今の彼がそうしているように、強く掴んで引き寄せれば忽ち痣になってしまう弱い肌。

例えば、組み敷かれて悲鳴をあげるこの体。
あの人のように男の腕に委ねる為にあるような体じゃない。
快楽と痛みの区別もつかず、
唯ひたすらシーツを握り締めて耐えるだけの頑なな私の体。
きっとあの人がそうする様に、艶かしい吐息を漏らして蕩けることも知らず、
色を失うほどに唇を結んで声を抑えることしか知らない。

例えばこの瞳。
長い睫に縁取られたあの人の瞳と、惑わすよう媚を含んだ目線。
そんな視線を向けるくせに、あの人の瞳はただ一人を除いてなにも映してはいないのだ。
私の真っ黒な瞳はきっと挑みかかるように険を帯びて彼を睨み据えているけれど、
閉じた瞼の下の彼の瞳はそれを映さない。
あの人と同じ。ただ一人だけを視ている瞳。

闇の中で目を凝らして、彼を見上げる。
時折頬に触れる冷たいものは涙なのか、それとも汗なのかわからないけれど。
切なげな呻きに交えて、
その唇から繰り返し繰り返吐き出されるその名前が私ではないことだけは明らかで。


ただあの人と同じ女の形をしているというだけで、
他に似ているものなんて何一つないのに、
一体私にあの人のどんな姿を重ねて抱いているというの。

ねえ、要。



「代わりにもならないんじゃないの」


並んで寝転んだベッドの上。
私に背を向けた彼が吸う煙草が、暗闇の中で目に痛いほど明るく見える。
返事はないけれど、きっといつか『深海魚みたい』だと笑った暗い瞳には
色濃く罪悪感が滲んでいるはずで。

「馬鹿。要の馬鹿」

彼の、熱の冷めない背中にぴたりと背中をくっつけて囁く。
せめて背中越しに届く私の声が、少しでもあの人に似ていたらいいなんて、思った。