終わりの見えない悪夢から開放してくれたのは、たおやかな天使の歌声だった。 「ごめん、起こしちゃった?」 シーツから身体を引き剥がし、差し出されたグラスを受け取る。一気に流し込んだ喉が訴える爽快感で、朝から全く水分を摂っていなかったことを思い出した。 「変な夢見てたから、起こしてくれて助かった。新菜、歌上手だね。」 「ふふ、ありがと。」 形の整った唇から零れる旋律の名前は知らない。それでも心地の良い澄んだ声は、忌まわしい夢の余韻を綺麗に消し去ってくれた。 「どんな夢見てたの?」 「んー、よく覚えてない・・・。玲二の生霊が説教しに来たのかもね。」 新菜がそっと手を伸ばし、火照った私の頬に触れた。ひんやりとしたそれは、歌の終わりの静けさに少し似ていた。 「熱いね。計ってみる?」 「いいよ、どうせまたバカみたいに高いだけだ。」 指先で撫でられた端から浄化されていくように、いつもとは比べ物にならない穏やかな眠気が訪れる。 「またうなされてたら起こしてあげる、もう一眠りしたら。」 「ありがとう。ねぇ新菜、さっきの、もう一度歌ってくれる?」 最期に見る夢には、きっと新菜が出てきてくれる。それ以上に欲しい未来なんて無い。優しい夢物語を奏でてくれる天使に全てを委ねることができるなら、その最期が明日来ても何も後悔は無かった。 「おやすみ、真梨香。」 例え天使の白い羽が、堕落へと導く悪魔の黒を潜ませていても。 |