真雪さんさんより要×マナ小説戴きました。


 「要、見て見て。似合う?」
 「あー似合う似合う…。」
 二日酔いでろくに回らない頭で返してから目を見開く。視界の中でいつも通りの笑顔を向けるマナちゃんが着ているのは、世間一般では男子が着用するはずの学ランだった。
 「どうしたんだ、それ。」
 「暇だったから箪笥整理してたら出てきたの。レン、こういうの捨てないから。」
 学生独特の雰囲気を放つそれは悪戯っぽい笑みを格段幼く見せた。
 「ねぇ、似合う?」
 中高生の頃から体格の良かったレンさんが着ていたものだから当然と言えば当然だが、それなりに背丈のあるマナちゃんが着てもやはり袖元まで手が届いていない。かろうじて顔を出している指先の白さがやけに際立った。
 「お前、それで似合うって言われてほんとに嬉しいか。」
 「えー?」
 生地の重さが珍しいのか、動き辛さを確かめては新しい玩具を与えられた子どものようにはしゃいでいた。
 「ねぇ、要も着てみて?」
 俺の返事を待たずに脱ぎ出す。その動作で初めて気づいた、学ランに備わっているはずの黄色いボタンがひとつも付いていない。男女問わずに面構えが最大の売りになる学生時代、外見だけは非の打ち所が無いレンさんが卒業式の風習の標的になるのも無理のないことだ。よく見ると袖に付けられた小さなボタンも引き千切られた痕があった。
 「はい、早くね。」
 ぴちっとした白Tシャツが際立たせる学生服に不自然な膨らみから目を逸らし受け取ると、マナちゃんは立ち上がり居間を出て行った。ジャージの上着を脱ぎ捨て腕を通すと、その懐かしい感覚に胸の奥が小さく疼く。ノスタルジアと呼べるほど美しい青春ではなかったにしろ、江夏や雪丸たちとこの服を纏って過ごした時期は確かに楽しかった。
 「着た?」
 嫌味なほどに余る裾を捲くって調整していると、マナちゃんの心なしか弾んだ声が背中にかかった。振り返ると何故か衣装換えが済んでいて、まだ夏の盛りは過ぎていないのに彼女が着ているのは冬用のセーラーだった。 
 「今度はなんだ。」
 「休み明けたらすぐ冬服だし、今のうちにクリーニング出しておこうと思って。要、こっち座って。」
 夏服に比べ少しくすんだ色をした赤いリボンが揺れる。ソファに腰掛けたマナちゃんが催促するように叩く隣のスペースに、意図をよくつかめないまま座った。
 「クラスメイトみたいだね。」
 言いながら俺が半ば無理矢理契約させた携帯を開く。束縛を嫌うこの兄妹はこのご時世に連絡をひとつ取るのも困難で、持たせ始めたころは電源もろくに入っていなかったが最近はそうでもないらしい。
 「クラスの子にね、写真の撮り方教えてもらったの。」
 嬉しそうな報告もまともに頭に入らないほど、先ほどの彼女の一言がじわじわと胸の内に沁み出した。
 もしもレンさんを通さずに、出会っていた俺達だったら。一回り離れていても十分分かる、口数が少なく無愛想とはいえこの顔立ちは高嶺の花だ。関わる機会はまず無く、あったとしても業務連絡を交わすか交わさないか。卒業して何年か経って、あぁそうだ奇跡みたいに綺麗な子がいたっけな、なんて酒の肴に思い出す程度。
 慣れない操作にしかめた横顔をそっと見やる。いつでも手の届く距離にいるから忘れていた。あの人が俺と関わっていなかったら、この子の名前すら知らずに生きたかもしれないのだ。
 「できた!」
 嬉しそうに携帯を目線より少し高く上げる。気づいた事実が大きすぎて、ほとんど日常と化したはずの笑顔がやたらと眩しく見えた。
 「撮るよ。要、笑って。」
 元々、写真は好きじゃない。普段から公言しているその事実に頼り、気づかれないよう目線を下げた。