扉を開ければ消毒液の独特の臭い 白に囲まれた世界の中に佇む黒は何故かとても、 「瀬田、先生ですか…?」 振り返った顔は袖に引かれた2本の線を見逃さなければ中等部の生徒とは思えないくらいの顔立ちだった 子供とも大人ともとれる彼女少し憂いを帯びた瞳を俯かせた 「…急に倒れたんです」 さっき、やっと眠ってくれました 今はもう大丈夫 ベッドのカーテンの隙間から見えた東本さんは随分顔白く 数週間ぶりに登校してきた彼女は1日学校で過ごすことさえ体が許さないらしい 「中等部の子なのに東本さんを心配して来てくれるなんて…君は東本さんの友達かな?」 「友達…真梨香はそんなもの望んでませんよ。ただ煙草を欲しがる依存症と同じです」 なくちゃ苦しいのに、いらないと突っぱねて 本当は欲しいのに、いらないって言うの 「君は…」 「瀬田先生」 言葉を遮った彼女はそっと微笑んで 「真梨香の鞄、持ってきてもらってもいいですか…? 保健の先生に早退しなさいって言われましたから」 中等部の自分が高等部の、しかも授業中に入っていくのは気が引けるのか、申し訳なさそうに彼女は言った 「それは…もちろん、」 「ありがとうございます。真梨香が起きたら送っていきますね。中等部はもう授業が終わっていますから」 先生にも用事があるでしょうし、と気遣う言葉も忘れない そんな言葉が申し訳ないと思う反面、嬉しくもあったので、ただそれを了承した 「じゃあ、その間東本さんをお願いするね」 「はい」 東本さんが横になるベッドのカーテンに隠れていくのを横目で見送り、そっとドアを閉める 授業中のため誰もいない静かな廊下に響く自分の足音を聞きながら、年上の相手を「真梨香」と呼んでいた彼女は誰だったか 名前を聞きそびれた、と心なしに思いながら、静かに自分のクラスに足を向けた |