デン子さんさんよりレン瀬田小説戴きました。


カキン

硬質な音がひとつ、天井に吸い込まれた。
それは見慣れた異物。
ありふれた色、ありふれた形。
決して此処にあるはずのない、彼の痕跡。

「珍しい、な」

そう。彼は珍しく酔っていた。
泥酔していたわけではない。
けれど、今日の彼はいつになく上機嫌で(そんなおかしな日は度々あるけど、そうじゃない)。

舐めるような、全てを暴くような不気味な目はナリを潜め、ただ愉快そうに弧を描いて。
常ならば不快感を煽る音を紡ぐ唇は柔らかく緩んでいて。

「何もしないよ」
そんな嘘みたいな言葉が一切の偽りを含んでいないのだと解るから。
喉の奥から湧き上がる、吐き気にも似た醜悪な塊を無理矢理飲み下す。

「用件は」
「さーあ、何だろうねぇ」

瞬間、頭の奥で何かがショートしたように火花を散らす。
それでも気取られないよう、小さく頭を振って熱を捨てる。

「ねえ、レン君」

聞いているのか、いないのか。
不意に取り出した一本の煙草。
いつもと変わらない、何一つ変わらないその光景に息を飲む。

「‥‥‥ん、何?あきちゃん」

薄い唇が軽薄な音と共に僅かな笑みを落とす。

慣れた仕種で炎を起こす。
伏せた睫毛の一本まで芸術品のように整えられていて。
ああ、この人間は何処までも神に愛されているのだと。


「こんなもの、使わないな…」

掌にはいつまでも馴染むことのない冷たさ。
小さなそれは、けれど存在感を薄めることもなく。

網膜に残る白磁の指を辿る。

かち

ゆらゆらと光が跳ねる。
指先が焦げ付くように熱を帯びていくのを感じながら、不規則に宙へ散っていく緋を見ていた。