藤咲さんさんよりマナカナ小説戴きました。


「陸に上がったおサカナみたいな目、してる」
輝きの乏しい、黒目に対して白の比率が若干多いその目を指差して言うと、
煙草を挟んだままの唇を器用に歪めた要は笑う。
「昔寝た女にも言われた。死んだ深海魚みたいだって」
見たことねえよ、どんなだよ、道化と苛立ちが複雑に絡んで同居したその声はおそろしく低い。
沈む声音を気に留めず、話を続けた。
「知ってた?死んだ魚の目って、ガラスみたいに澄んですごく綺麗なんだって」
それはいつか―「レンが言ってた」。
「へえ」
片手で煙草に火を灯す間にも、
つりあがった細い目の中の黒は揺るがないまま、要はこちらを見据えている。
「きっと、その人もそう言いたかったんだよ」
見透かすようなその視線と対峙しながら、そんな、こころにもない言葉を吐いた。
「それは、どーも」
深々と吸い込んだ紫煙を吐いて、要は言う。
微塵の気持ちもこもらない言葉はお互い様というもので、
いまさら非難するものでもなければ、そもそもはなからそのような気遣いは無い。
「嘘。なんとなく、言ってみただけ」
「うん、知ってる」
そんな他愛も無い、いつものやり取り。
立ち上っては顔の周りで靄を作る紫煙越しに見る目は、
澄んでも輝いても居ないが、ただただ、暗かった。
闇だ―水面下三千メートル、すべての光を遮断して海底に横たわる、心地良い闇。
光のない深海で闇だけを映す魚の瞳が逸らされると、二人の間に再び沈黙が落ちた。