「…ったく、さっさと寝ろっつーんだよ。」 酒と煙草の詰まったビニールを揺らしながら、ほぼ自らの足音しか聞こえない静けさを歩く。 時計の短針はとっくにてっぺんを越え、あまつさえ長針と90°を形作ろうとしている。流石に民家の窓は暗く、街灯の明かりだけがジリジリと道を示していた。 「…あ?」 幾つかそんな街灯を通り過ぎ、ループしたような同じ景色がふと、変化を見せた。 少し先の明かりの中に、影が。 「…お前、こんな夜中に一人で何やってんだ。」 思わずピタリと立ち止まれば、自らの足音さえ消えた静寂にゆるりと影が振り返る。 あまりよろしくない視力は眼鏡で矯正されてあるにも関わらず、凝視しようと睨むように目を凝らせば、街灯に照らされたそれは黒を纏った少女であった。 正体を把握し僅かに見開いた目の前で、少女の唇が弧を描く。 「…何笑ってやがる。」 「いいえ、すいません。見ず知らずの人に声をかけてくるなんて、今時珍しいお兄さんだと思って。」 くすくす。 妙に残る笑い声に思わず眉を顰めればそれすらも笑いを誘ったらしく、なんとも気に入らない笑みを浮かべ続けている影にふと、見知った顔が脳裏にちらつく。 ずしりと急に重量を増したビニールから同じ気配を感じて、ぞくりと何かが背を駆けた。 「……なんだ、もう”誰かの”なんだ。…残念。」 凍ったように動けない自らの横を通りぬけ、再びくすりと少女は笑う。 街灯の明かりから抜け出た彼女は、まるで闇に溶けたようだった。 |