一定に告げるコール音は持ち主の不在を表していて それが何回鳴ったか数えるのさえ、うっとおし気に携帯を閉じる 「棗先生」 期待した声より高いその声に振り返れば、短い黒髪が風に揺れていた 笑みを浮かべる口と、自分を見上げる瞳には見覚えがある 「望月新菜か」 「こんにちは、棗先生。真梨香ならいませんよ?」 「知っている」 不機嫌さを増した言葉に腹を立てることもせず、目の前の少女はただ笑っていた 随分女らしい笑い方だなと思って見ていると、あいつが女らしくないだけかと気づく そんな俺を不思議に思ってか「棗先生?」と首を傾げた 「…いや、「真梨香のことでも考えてました?」」 一瞬息が止まった 「棗先生にとって真梨香はただの幼馴染ですか?」 「それ以外があるか」 「……なら、真梨香は私が貰いますね」 風にかき消されてもおかしくなかったその声は、確かに耳に届いた 湧き上がる感情が何か分からないまま少女を睨みつけて、拳を握った 「棗先生にとって真梨香は幼馴染?患者?それとも大切な女の子?」 「……くだらない」 吐き捨てるように言った言葉は思ったよりも弱弱しく聞こえた 「新菜!?……と、玲二」 「おかえりなさい、真梨香」 俺を通り過ぎ、真梨香に抱きつく それを真梨香は嬉しそうに受け止めて、笑って 「真梨香、いつもの薬だ。それと携帯にちゃんと出ろ連絡したんだぞ」 いつもの小言を言いながら、薬を押し付けて通り過ぎる 「棗先生、さようなら」 通り過ぎる際に聞こえた声 顔を向ければ、優しく笑う 何故か俺はその表情が気に入らなかった 何もかもが気に入らなかった 「玲二と何話してたの?」 「世間話。今日は暑いですねって」 「ふーん」 そんな会話が遠くに聞こえるのを感じながら足を速めた 『……なら、真梨香は私が貰いますね』 その言葉が頭の中で響く 痛み出した頭痛は睡眠不足のせいにして、唇を噛んだ ――気に入らない 口の中で血の味が広がった気がした |