「先生?」 「何?」 「…やっぱりなんでもない。」 喉まで出かけたその言葉を、出す勇気はなかった。 余りにも抽象的で夢見がちな、都合のいい言葉だったから 「そう。」 「先生、大好き。」 代わりに出した言葉だって余りにもありふれていて、新鮮味もなにもない安っぽい言葉だった。 言葉なんて、嫌い ニュアンスだ何だって少しでも違えば伝わらないから もっと、すぐに、簡単に、伝わる何かが欲しい そうすれば、こんなに変な気分にならなくて済むから 「ねえ、先生。」 「何?」 デジャヴ その背中の体温に触れて初めて、自分が肌寒さを感じていたことに気づく だから尚更、その温かさが欲しい。 「先生、セックスしよう」 綺麗な言葉一つさえ言えない こんなことでしかまともにコミュニケーションがとれなくて先が不安になる 触れた肌が体温と一緒に感情を全部通してくれたらって、何度思ったんだろう 愛してる 大好き 離れたくない ここにいて みんな一度に伝えたいから。 口にすると価値がなくなるから。 「ねえ、せんせい?」 「なに?」 今にも瞼が閉じそうな午前3時 今なら、間違っても、そうじゃなくても、忘れられると思ったから。 「私、先生とずっと一緒にいたい。」 「うん。」 先生はどんな顔をしているんだろう。 顔を見るのが怖かったから先生の首の下に顔をうずめた。 どうか、どうか 神様、お願い 私のこと、心ごと先生に伝えてよ こんな、変な気分にさせないでよ 先生の体温は、言葉にしたくない位に温かい |