事の始まりは、俺が忘れた音楽プレイヤーを取りに帰ったことだった。 鍵の空いていた教室を除けば窓辺にたたずむ人影。セーラー服の後ろ姿は紛れもなくここの生徒で、そこからあがってる細い煙は…多分…。 「…あ、見つかっちゃった。どうしたの颯太、忘れ物?」 「い、…いのう…え?」 受動喫煙 口元のタバコを隠そうともせず振り向いて、ひらりと片手を挙げてさえ見せたそいつは、よく知るクラスメートだった。 「井之上、おま…何やってんだよ!」 「えー、颯太はこういうの吸わない?…ま、吸わないか。慣れるまでちょっとかかるしね。」 俺の荒らげた声を聞きながらも、悪びれた様子を見せずへらへらと軽い口調。 それに少しムッときてツカツカと井之上に近づけば、やはり後退りもせずそのままの表情で俺を見上げた。 「だからさ、そういうことじゃな、…!苦…っ」 と、突然口の中に広がった苦味に眉をしかめる。 えりを引かれたと思ったらそのまま口移しでタバコの煙を吹きこまれたみたいだ。急な煙たさに軽く咳き込み、うっすらと目に涙がにじむ。うへ、まじ苦ぇ。 「……これで共犯、だね。あは、颯太ホントに煙草吸ったこと無いんだ?やっぱそこら辺は真面目なんだね。」 少しリップのとれた唇を舌でなぞる井之上は、滲む視界の中でくすくすと心底楽しそうに笑った。 ポケットから取り出した可愛らしい柄の、アルミみたいな金属のケースにタバコを入れて、そのまま俺の横を通りすぎていく。 「じゃ、またね。颯太。…共犯なんだから他の人に言っちゃダメだよ?」 「ちょ、井之上…!」 振り返り呼びかけるも、ひらひらと手を振る背中が見えただけで、教室の扉が閉まる。 「…まじかよ…。」 だめだ、いきなり入ってきた情報量が多すぎて、俺の頭じゃすぐに処理しきそうにれない。 窓から逃げ出せなかった煙草の匂いを感じながら、俺は少しの間井之上が出て行った扉をみつめていた。 --------------------- 屋上に続く階段の踊場で、今更早くなってきた心臓を抑えるように両手をやる。先ほどまでの彼の驚いたような顔が脳裏にちかちかと焼き付いていた。 「み、見られ、た…!」 そして…勢いに任せてつい、やってしまった。 どうしよう、明日から彼にどのような顔で接すればいいんだろう。どちらにせよ向こうがどういう反応を返すか分からない。もしかしたら…もう、話せないかも、しれない。 ずるずると、壁に凭れて座り込む。…しばらくは、ここから動けそうに、ない。 |