東雲さんより、要×マナ小説戴きました。


胸の辺りにいつも居座っている黒い塊。一体いつからいるのか、どうして出来たのか分からない。ただ確実なのは、日に日に大きくなりつつあるということだ。

「ちわーっス、レンさーん?」
慣れ親しんだ友人の家に踏み込む。ズカズカと部屋へと進むとソファに横たわる友人の姿を見つけた。時間指定をしてまで自分を迎えに来いと連絡してきた癖に、その間に寝るとはこの人らしい。
「レンさーん、起きてくださーい。レンさーん!」
頭上から声をかける。それでももぞりと身動ぎしただけで、目を覚ますことはなかった。暫く粘ってみたが、起きる気配が無かったため、ソファを背にどかりと床へ座る。
「ふぁぁぁあ…。」
電話で起こされたばかりな上に、すぐ傍で気持ちよさそうに寝ている友人を見ていたら眠気が移ったのか眠くなってしまった。大あくびをつくと独り言を呟く。
「レンさん起きねえし…ちょっと寝るか。」
腕を組み目を瞑る。睡魔はあっという間にやってきて、俺を夢の中へと引き摺り込んだ。

「………っ!?」
どれくらい経ったのか、目が覚め顔を上げると目の前に見知った少女の顔があり思わず仰け反った。しかしソファを背にしていた為然程距離は変わらない。
「あ、おはよう、要。」
「…お、おはよう……。」
心臓がバクバク鳴っている。何度も見たことのある顔だというのに、こんなに間近で見ると、やはり兄妹なのだ、美形である。
「レンは要が起きないからって出かけちゃったよ?」
目の前でニコリと笑うと友人の所在を話してくれた。起こされて気付かないほど、深い眠りについていたのだろうか。
驚いたまま固まっていると彼女はすっと立ち上がり俺を呼んだ。
「ねえ、ねえ見て!今日クラスの人に貰ったんだけど、誕生日プレゼント!」
隣に立ち手の中の物を見やる。綺麗に包装された小さな小包を大切そうに持って自慢したげにこちらをみてくる。
「あぁ…うん、良かったね。」
素っ気無い返事に不満だったのか口を尖らせて包みを開けると少し高価そうなブレスレットが入っていた。嬉しそうに身に付けると自慢げに見せびらかす。ぼんやりとした黒い塊が胸の内から少し顔を覗かせる。
「小日向君、誕生日知っててくれて吃驚したなあ。」
嬉しそうにブレスレットを眺めながら呟く。
―コヒナタクン
どくん、と心臓が跳ねた。
胸の辺りを燻っていた黒い塊が、縁取られ、形を成し、俺を飲み込んでいく。ああ、これは醜い心だろうか。

―ダンッ
隣で話をしていた筈の人間が目の前にいた。だらりと伸びた前髪と縁の眼鏡によって俯いている彼の表情が上手く読み取れない。
横に付き立てられた逞しい腕から血管が浮き出ているのが見える。彼はきっと、怒っているのだろう。
一体何が彼の逆鱗に触れたのか分からない。手首を擽る冷たい金具の感覚が鼓動を更に早くする。体中の血液が、頭から足の先まで走り回っている。
「か、なめ・・・?」
おずおずと名前を呼ぶ。呼ばれた本人は、ちらりと目線だけを寄こすとチッと小さく舌打ちすると、顔を上げた。
怒ったような、諌めるような、不満そうな。眉間の皺がいつもより多いことだけは分かった。
表情を読むのに必死で、彼の顔が近づいていることに気がつくのに暫く時間がかかった。反射的にぎゅっと目を瞑る。彼の呼吸が感じられるくらいの距離まで近づいてくる。
ふと、顔に光が当たった。
「ごめん・・・・・・。」
彼はばつが悪そうに手を引込めると、そのまま何も言わずに部屋を出て行った。
「要・・・・・・。」


「・・・・・・クッソ!」
何で俺じゃないんだろう。彼女の瞳に映るのは、いつも俺じゃないほかの誰か。そんなこと、もう随分前から知っていたはずなのに。いつの間に俺は、こんなにも貪欲になってしまったのだろう。
栗色の髪から覗く瞳に、俺は射抜かれてしまった。ああ、こんなにも愛おしい。けれど、如何して俺は、傍にいることしか出来ないのだろうか。
「・・・・・・しかし・・・。」
やってしまった。友人の妹、友人にキスを迫るなど、どうかしている。
なるべく早くこの場から立ち去ってしまいたかった。寝て忘れてしまおう、そう思うときに限って、エレベーターが上がってこない。
―ガンッ
コンクリートの壁を思い切り叩く。ザラっとした壁の感覚と突く様な痛みに襲われる。
「って・・・。」
我ながら莫迦らしい。痛みの原因を横目で見る。力の限り叩きつけた手から少しの血が流れている。舐めておけば治る、という原始的な考えでべろりと傷口を舐めた。
ツンとした鉄とコンクリートの味がし、顔を顰めて舌にのった味を飲み込む。決して美味しいものではないのだから、当たり前だ。

「要っ!」
「!!?」
声のする方を向くと栗毛の少女が走り寄ってきた。
「かなめ・・・っ。」
気まずい雰囲気を感じ取っていないわけが無いのに、一体どうして追いかけて来たのだろうか。
「要・・・・・・。・・・怪我、してるの?」
俺の手を見ると手首を掴んで引き寄せ、何も言わずに家へと連れ戻されてしまった。

無言のままもくもくと手当てをする彼女を横目で眺める。見慣れた部屋な筈なのに、どうにも居心地が悪い。
時々触れる細い指先がこそばゆくなんだかとても、緊張する。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
沈黙が痛い。巻いてもらった包帯が手にかいた汗で濡れてしまうのではと心配になった。
「別に・・・。」
「え?」
最初に沈黙を破ったのは彼女のほうだった。声の方へ目線を送ると、彼女は俯いたまま。厚い前髪に遮られて顔は良く見えない。しかし、栗毛から覗く小さな耳が真っ赤に染まっているのに気がついた。
「・・・別に、嫌じゃなかったよ・・・たぶん・・・。」
思考が止まる。一体何のことだろう、いいや分かっている。ここで何が?と聞くほど野暮な男じゃねぇ。
ということは、そういうことで・・・。
「え?・・・ええええええええええええええええええ!?」

もやもやするのも、悪くないかもしれない。

-END-