愛の名を持つ少女は実に愛にそぐわぬ人間だ、と言われたことがある。 そんなこと、私は思った事もなければ、信じてもいない。 私にとって彼女は黒い羽を持つ天使。 他人に言われたレッテルなんて関係ない。 彼女が私のそばにいてくれるだけで、それだけで私は幸せなのだ。 「真梨香。また煙草吸って棗先生に怒られない?」 「いいんだよ、あんな説教マシーン放っておけば。」 ベランダから空へ上っていく紫煙は青色にそぐわぬ薄ぼやけた色をしている。 後ろから声をかけてきた声の主は隣に座るといつものような笑顔で真梨香の体が心配なのよ、と言った。 愛の名をもつ彼女は私に愛はくれない。 ただ傍に居てくれるという約束を私が信じている限り、それを守ってくれる。 「新菜がいてくれるのなら、死ぬのだって怖くないよ。」 肺まで浸透した有毒な煙に乗せて声にならない言葉を吐く。 「真梨香、灰落ちるよ。」 空へ奪われていた意識が現実へと引き戻される。 ぼんやりと眺めていた空はいつもと変わらず青いけれど、それが続くなんて、そんなの普通の人間でしか思わないだろう。 「ん、ゴメン。」 コンクリートのベランダにまだ吸いかけの煙草を押し付ける。 灰と煙草の草が不恰好に潰れて捨てられる。 私もいつかこんな風に、誰かに捨てられてしまうのだろうか。 隣に座る新菜が心配そうにこちらを覗き込む。 ゴツン― 勢いのまま新菜を抱きしめて後ろへと倒れた。 頭をぶつけたのか小さな呻き声が腕の中から聞こえる。 御免なさい、と心の中で呟き腕の力を強める。 抱きしめたら壊れてしまいそうな、でも柔らかく温かい体に私の骨ばった体を押し付ける。 「新菜。これからも、傍にいて…。」 耳元で囁いた懇願の言葉が彼女に届いたかなんてどうだっていい。 目に見えない願いや約束を信じることが怖い。確認できない何かを得ることが私に出来るのだろうか。 背中に回された細い腕が、答えだと信じたかった。 ‐END‐ |