どぅん。さんより、瀬田×真梨香の小説を戴きました。


「世界はいつ出来たと思います?」
その細い四肢の少女、真梨香は瀬田に問うた。
久しぶりに学校に来た真梨香を、瀬田は放課後呼び出した。提出物、プリント、その他諸々の雑務を告げるために。その長い髪は少女には重すぎるのでは、と思うほど黒く光っている。
「どういうこと?」
「この世界は5分前に作られた物だとしたら、先生はどう思います?」
「・・・東本さんは難しいことを知ってるね」
瀬田は薄く笑う、その感情のこもらない目に薄らと【関心】の二文字が見えたように思える。
「なんだ、先生知ってるんだ」
「まあね。有名な仮説じゃないか」

この世界は全て5分前に出来たもので、それ以前の記憶だと思っているものは全てデータとして私たちに組み込まれている。
こんなことありえないと思うだろうが、そうとも言えない。
何故なら反証がないから。確認しようがないから。
例えばノートに今していることをかき込む。そして5分後それを確認する。これは過去からの積み重ねだと思えるが、それが全て仕組まれたことだったら、確認のしようがない。
その様子を映像で残しても、それすらも仕組まれたことだったら。

「先生は信じますか?」
「その仮説を?」
「うん」
瀬田はしばらく考えそして顔を上げ、口をゆっくりあける。
「信じたく、ないかな」
「どうして?」
「もしも全てがデータだとして、そのデータに組み込まれた記憶の痛みや悲しみまで受け継ぎたくないからね」
そう言った後の瀬田の目を見ても何も映っていなかった。自ら閉ざした心を、彼は人に見せようとしない。
「私は信じてる」
「何故?」
「もしも全てが仕組まれたことなら、私は事実を受け止められる」
彼女を知らない人が聞けばそれは希望に満ちた答えだっただろう。しかしそれは痛みも苦しみも、全てを受け入れると言う、絶望しきった答えだった。
「東本さんはすごいなー」
「なんで?」
「僕には無理だよ。全てを受け入れるなんて。重たいじゃないか」
「重みは生きている証よ、先生」

無駄な物を削ぎ落としたその体に、重みがあるのだろうか。
真っ白なその肌は、果たして人間の物なのだろうか。
未来が解りきっているのに空を見るその瞳には、何が映っているのだろうか。

瀬田と別れ家路につく。
「まーりか」
「・・・新菜!」
「遅かったね」
「待っててくれたの?」
「だって真梨香の制服姿なんて、滅多に見れないもの」
「ふふふ」
「クスクス」
少女は自分の運命を、どう受け止めているのだろうか。