大人気ない嫉妬、何てものは生憎持ち合わせていなかった 筈だったのに。 彼女の後ろにチラつく黒い羽を持つ少女。 笑ったような、俺を品定めするような目線。 背徳の気持ちを背負って立つかのような重圧。 腹が立つ。 「新菜がね、今日ケーキ買って家で待っててくれてるんだ。」 診察椅子からいつもより少し高いトーンで話しかけてくる。 口に出されるニイナ、という言葉に腹の奥が鈍く痛む。 その言葉を横目に診察を続ける。 「(目障りだな…)」 何か言った?と目の前の患者はご機嫌に訊ねてきた。 人の気も知らないで、そうやって彼女の前でも笑うのだろうか。 彼女への嫉妬と、自分への嫌悪に酷く、気分が悪くなった。 不意に鼻をつく紫煙の匂いが漂う。 「こら、煙草は吸うなと言ってるだろう。」 「別に良いでしょ!暇なんだからちょっとくらい大目に見てくれてもいいじゃん !」 火の付いたばかりの煙草を取り上げると近くにあった膿盆に押し付けた。 ジュッと短い音がするとただのカスになった煙草から白い煙がまっすぐ上へ立ち 昇る。 「ねえ、玲二、もう帰っていい?」 「……もう少しだ。」 ぶーっと文句をたれると椅子から足をぶらぶらとさせ落ち着かない。 細い四肢と白い肌が、黒い服によって更に白さを強調させる。 長い足を持て余したまま早く帰せとせがんでいる。 「玲二、新菜が家で待ってるんだ、よっ!」 後ろから椅子をゴツゴツと蹴り催促する。 その衝撃で、何かが、切れた。 ガタンッ― 「・・・えっ・・・。」 目の前の黒い瞳に自分の顔が映り思わずドキリとした。 一体自分が何をしたのか一瞬分からず手の平で脈打つ血液にハッとした。 壁に押し付けた細い体を走る血液が少し早いことに気付き手を離す。 何事も無かったように後ろを向き眼鏡を戻した。 「すまない、今日はもう、帰って・・・」 張り付いたままの少女に向き直すと彼女は俯いたまま黙っていた。 「真梨香・・・?」 「・・・っ!」 名前を呼ばれて顔を上げると少し頬が赤かった。 風邪でも引いたのかと近寄ると更に顔を赤くして拒否をした。 「も、もう帰るッ・・・!」 そう言い残すとバタバタと逃げるように出て行った。 一体それがどういうことなのか分からず半ば置き去りにされたように感じた。 「・・・・・・バカ玲二ッ・・・」 顔が熱い。血液が全身を高速で駆け回っているようでドクドクと鼓動が速い。 童貞の癖に、美形だから腹が立つ。 息がかかるほどの距離に見えた玲二の顔を思い出す。 一体何の意図があったのか今になっては分からない。 何が起こったかさえ把握できない。居ても立っても居られず逃げてきてしまった 。 掴まれた腕に玲二の体温が残っているかのようでむず痒い。 また少し、顔が火照った。 ‐END‐ |