償いを待つ 「城崎さん」 暗い部屋でも名字で呼ぶのは、一種の線引きだ。本能と理性の間でもがく僕を何かが嘲笑う。 欲望と誘惑を相手に勝負を挑んで幾度目だ。 君が消えない傷跡を望むならば叶えようと云ったところで、そこに救いはないのだろう。そんなもの、きっと本当は求めてすらいないのだ。 それでも捨てられないから、過ちは進化する。そうして君の名前を呼ぶ。 「……マナ」 この声はどうして震えないのだろう。いっそ無様なほどに崩れてしまえばよかった。せっかく積んだトランプの山が、頂点からばらばらになってしまうように。 「先、生?」 君の視線が痛い。 揺るぎない瞳に潜む感情を愛と呼ぶなら、それがどこにどれほど閉じ込められているのかなんて、わかりたくもない。理解してしまえば、それは一つの終焉を生むから。 「ごめん」 過去(きのう)を拒絶するとき、君はきっと傷つくのだろう。それでも、未来(あした)へ往かないわけにはいかない。 僕は悪い大人だろうか。肯定してほしい僕を誰かが裏切って、また別の今日を教えようとする。 隣で寒いと甘える君は可愛くて愛しい。そんなこと、僕が一番よくわかってる。でも、だからこそ、さよならは傍で控えていた。 起きたらまたひどい寝癖が見れるのだろう。それを幸せを呼ぶかどうかはその人次第で、きっと僕はそうは呼べないと諦めている。 君のことを考えると思考がはみ出してしまって、どうしようもない。救いようがないけど、それで構わない。壊れてるのは、きっと関係だけじゃなかった。 いつか、その口で僕を罵る日は来るのだろうか。想像すると少し楽しくなる。なんて、言葉どおりに捉えられたら困る発言だ。だけど、それが意味する現実を誰もわかってくれなくてもいい。 泣きもしない僕の濁りを知らず、君は静かに笑った。 |