まことさん(前半)と真雪さん(後半)のコラボ小説!


「痛いかな」
「うん…痛そう。痛いかも」

耳に押し当てられる保冷剤と消毒液の臭い
その中に微かに混ざる彼女の体温は何かを刺激して
僕をおかしくさせるには十分だったように思う

覚束ない手つきとどこか楽しそうな口元
これから僕に待っているのは身を刺す痛みだけだったが、それさえ楽しみにさせた

「やっぱり安全ピンがいいのかな。裁縫針じゃ小さい気がする。安全ピンってあった…?」
「確か、そこの棚の左、そう、そこの奥の箱の中」
「あ、あった」

嬉々として安全ピンを持ってくる彼女
何がそこまで彼女を楽しませるのか
きっと何の感情も含むことなくその針を刺すのだろう
甘い痛みとは程遠いそれはきっと蜂のように鋭く僕を殺してしまう

「画鋲は痛かったみたいだけど、安全ピンはどうかな…」
「画鋲は痛そうだね」
「そう。すごく痛がってた。怖いって言うから一気に刺してあげたのに」
 彼女は薄く笑って、安全ピンの留め金を外した
 僕はその細い腕を掴む
 それこそ何の感情も含まずに、反射的に
 「瞳子」
 そんなことができたら、僕はもう醜い夢にうなされることはないのに

 「誰のことを思い出したの」
 ぎち、と握る手に血管が浮かぶ
 枯れた枝のような腕を見つめて、彼女は痛い、と小さく呟いた
 
 「放して」
 「他の男に触ったんだ。この手で」
 言葉を発する舌が焼けつく
 彼女の瞳の温度が下がっていく
 そこに僕の姿は映らない
 例え世界が夢のような終焉を迎えて、僕と彼女の楽園が完成したとしても

 「他の男にしたことを、僕にするの?瞳子」
 何度も名前を呼んでいるのに
 こんなにも彼女だけを求めているのに
 「瞳子、僕を見て」
 彼女の瞳はいつまでも濁ったままだから

 「見てるよ」
 「見てないよ」
 彼女の手から安全ピンを受け取る
 針が剥き出しになったそれは蛍光灯のあかりを鈍く照り返した

 指の腹を深く突き刺す
 ぶつりと嫌な音がして、赤い珠がすうと流れた
 
 「瞳子、見て」
 穴なんて開けなくても
 傷なんて作らなくても
 「同じ血だ」
 僕と彼女は、ひとつの道を辿ることしかできない
 「きれいだね」
 そう、分かっているのに


 彼女は立ち上がる
 僕と会話していたことなどなかったかのように
 安全ピンを床に置いたまま
 「瞳子?空けないの」
 「やめた」
 僕は彼女の気まぐれに慣れている
 僕は彼女の気まぐれがいとおしい
 だけど
 「お腹すいた。優希、何が食べたい?」
 だけど
 「今日はいらない」
 そのいとおしさは時として、刃となって彼女の胸を貫きたいと暴れ出す
 硬い乳房に
 ざらついた肌に
 「そう。じゃあ、私のだけ作る」
 彼女は僕に理由を聞かない、いつだって
 だからその瞳には僕が映らない
 瞳子の薄い背中を視姦しながら、出血した指をねぶった

 彼女の味は、しなかった