彼女を魅せるのは、罰という名の束縛。眩しい季節すら凍えさせる、一貫した信念。 「書留、誰から?」 「レンさん宛て」 「そう」 顔を見られないままソファに戻る。眼鏡を外し寝転がると、座っていた彼女がふふっと声を洩らした。 「城崎さーん、で、あーい、だって」 「…あ?」 「板についてるなあと思って。西園寺さんでしょ、要は」 「仕方ねえだろ、お前らがこういう雑用全部俺に任せるんだから」 ぼやけた視界を腕で覆う。視覚が閉ざされると、か細い彼女の声はいっそう深く自分の中に響く。人工的な甘みはまだ口の中に残っていた。 「そうだね。ずっと、そうだったもんね」 蝉の声が的外れのBGMのように、遥か遠くで騒いでいる。風物詩といえど鬱陶しいだけのそれは昂る気温に拍車をかけるだけで、なんの気休めにもなりはしない。 「マナちゃん、おしぼり頼む。暑くて洗面所まで行くのめんどくせえ」 「ああ、手?もうアイス食べないの?」 「いらね。全部食べていいよ、陽が沈んだら新しいの買ってくる」 「ありがと」 立ち上がり、台所に向かう。布とシンクが水を弾く音、レバーを下げて、音だけでこんなにも鮮明に姿を描くことができる。俺の暗闇で描かれるの彼女の後ろ姿はいつも頼りなくて、少し触れるだけであっけなく壊れてしまいそうで、長年見てきただけあって卑劣なほど現実に酷似している。 「はい」 「さんきゅ」 腕にひやりとした感触が乗せられる。目を強く瞑ったまま手探りで指先を拭いた。また同じ位置に座り直す気配がする。 「夏って、いつも唐突に終わるよね」 「そうだな」 しゃくしゃくと涼しげな咀嚼音の合間で、まるで話の続きのように彼女は言う。 「始まるときはちゃんと前触れがあるのに」 「そんなもんだろ」 「要、やっぱりアイス手伝って。なんか寒くなってきた」 兄貴もそうだが、彼女の話にはまとまりがない。溢れた言葉をそのまま零すように、無防備に紡ぎ続ける。 「やだよ、もう手汚したくねえ」 「食べさせてあげる、さっきみたいに。大丈夫、もう罰ゲームなんて言わないから」 似ているだけだ。この腕をどかせば、またそんな現実に直面する。俺の想像の中で彼女がどんなに微笑んだって、その矛先は俺じゃない。 「はい、口開けて」 わざわざ反芻して噛み締めなくたって、そんなことは百年も前から承知している。それなのに今日みたいな、頭の芯が茹だるほど暑い日は、奥底に仕舞いこんだ意識が浮かび上がってしまう。 「さて、何味でしょう。今度はちょっと難しいかも」 暗闇がどんなに濃くても思い描くのが俺じゃないなら、たやすく目なんて閉じるなよ。 「…ミント」 「残念、ぶどうでした。要、私の味音痴移った?ミントってなかなか間違えないよ」 知ってるよ馬鹿。声に出してしまわないように、大きく喉を鳴らして冷たい塊を飲み下した。 |