宵冴音さんより、レンと要とマナと真梨香の小説戴きました。


仁義なき戦い



「なぁー要ちゃーん?」
キッチンの方から、レンさんの呼ぶ声がする。
「なんすかレンさん。
 ってか、その呼び方やめてくださいよ。気色悪ぃ・・・あ」

最高に笑顔なレンを見て、思わず身構える。
(嫌な予感しかしない・・・・)
「あーっと、何ですかね・・・?」

「なぁ、お前、食べたろ?」
ニコッっと笑って、小首まで傾げて、大層可愛らしいポーズだ。
・・・この人じゃなけりゃな。

「え、なに・・・」

言うが早いか、頬に突然痛みが走った。
体が衝撃でぐらつく。
状況を呑み込めないままで、レンの拳を浴びる。
顔に、腹に、全身に。
ついには足を蹴飛ばされ、床に組み敷かれる状態に。

「てんめぇ、なめてんのか、あぁ?
 いい度胸してんじゃねぇか、おい。」
「ちょ、待ってくださいよ・・・っ!
 あんた、さっきから何言って・・・」
「るせぇ。てめぇが悪いんだろうが。」

腕を押さえて必死の抗議をするも、完全に頭に血が上っているらしい。
レンは聞く耳を持たない。
どころか、殴るのをやめない。
(つか、痛ぇんだけどふつーに。
膝、腹圧迫してるし。
なんなの、この人。まじで意味わかんねぇ。)

混乱し、抵抗しながらも、どこか頭の片隅は冷静で。
レンの様子を伺う余裕すらあったわけだが。
(あれ、俺おかしくね?
理不尽に殴られてんだから、殴り返しゃいんじゃね?)

「レンさんっ、あんたいい加減にしないと
 俺もやり返しますよ?」
「あ゛?やれるもんならやりゃぁいいだろうが、よっ!」
強気な一言と共に、腹部に強烈な一撃が入る。
(じゃあ・・・やってやるよ。)
どこかで、なにかの切れた音がした。


先ほどの一撃は、なかなかの破壊力だったようだが、
キレてしまった要にはそんな事も関係ない様子。
「・・・ぅらぁ!」
「はっ、甘いっスね!」
吐き散らかす暴言の数々。
降り止まない暴力の数多。

負けず嫌いな二人に、
終止符を打つだなんて選択肢はないのだろう。


ガチャ
「ただいまー」

間の抜けた声で、非常にやる気なく、救世主の帰宅。
「って、あれ。何してんのー?」
激しい殴り合いの様子に、驚く素振りも見せず。
止めるわけでもなく。
キッチンに買い物袋を置きながら。

「・・・いやぁ、城崎さん。あれは止めようよ。
 ていうか、さっきから五月蝿いと思ったら・・・。」
玄関口で腕を組んだ、痩身の少女に制止を促される。
「うーん・・・でも、遊んでるんだと思うし・・・」
「いやいやいやいや、俺超必死で闘ってるじゃん!
 ちょっと、マナちゃんこの人止めて!」
「えー、要何と闘ってんの?世間の常識?」

戯言を吐きながら、兄に抱きついてやんわりと制止する。
「レンー、おうち壊れちゃうから、やめて?ね?」

「お前の兄貴だよ、どう見ても!」
耐え切れないと言うように、腹に乗っていた膝を押しのける。

「あははは!何だこれ、コント?」
「やだ、東本さん!笑いすぎー。」
まるでお笑い番組でも見ているみたいな気軽さで。
当の二人は、むすっとして、お互いに背を向けている。

「んー、遊んでるんじゃないんだったら、何があったのー?」
場にそぐわない無邪気さで尋ねる。

「・・・・・・・要が、俺のプリン食った。」
しばらく答えるのを渋っていたレンが、やっと口を開く。
「はあああ!?食ってないっすよ、何の話だよ。
 ていうか、そんな下らないこと!?」
後ろで真梨香が、笑い声を押し殺して凄い顔をしている。
「もっかい言いますけど、食ってないんで!
 そんなら、俺も言わせて貰いますけど、あんた俺のプリン大福食ったでしょ!
 ねぇんだよ、楽しみに取っておいたやつが!」
「はぁ?しらねぇよ。お前のもんなんか!興味ないわ!」

戦争勃発の兆し。乱闘の予感。
(うわぁ、帰りたい)
後ろの真梨香は、露骨に迷惑そうな顔で立っている。

「・・・・二人とも、大人気ないなぁ。
 いいじゃん、それくらいー」
あははと笑いながら、明らかにマナの様子がおかしい。
おもむろにキッチンへと歩いて行き、買ってきたらしいケーキの箱を差し出す。

「これ、東本さんと買ってきたんだけど、私のプリン、二人にあげる。
 だからさー、喧嘩なんてもうやめようよ、ね?」
天使のような笑顔で、プリンとスプーンを差し出す。

「まぁ、マナがそういうなら・・・仕方ねぇな。」
「レンさんがそれでいいなら、いいっすよ。」

柔らかに舌を撫ぜるプリンを、大の大人で半分個。
腑に落ちないとは思いながらも、機嫌を直す二人。
・・・・今日も、城崎家は平和です。

(あれ、じゃあ、プリン食ったの誰だよ。)
(ていうか、さっきの女、誰だ。)




―裏話―

東本家にて。

「城崎さーん、プリンあげてよかったの?楽しみにしてたじゃん。」
「ん、いいのいいの。シュークリームもあるし。」
「ふぅん。一口いる?」
「いるー!いるいる!・・・いいの?」
「ふふっ、いいよ。はい、あーん。」
「えっ・・・」
「はら、城崎さん。早く口開けないと、零れちゃうよ?」
「う、うん。あーん」
(役得役得。可愛いな。)

「・・・ねぇ、城崎さん。一つ聞いていい?」
「え、何?」
「プリンも、プリン大福も、食べたの城崎さんなんでしょう?」
「・・・・あれぇ、ばれちゃった?」
(そういうことか。この子、天使の顔した悪魔だな。)


...END