東雲さんより、瀬田マナ小説戴きました。




ラブ・オア・オピウム



僕らはこの箱庭で許されない恋をする

制限と、視線と、建前と、肩書と。
僕らを縛る無数の制約が体中へと絡みつく。
この世界では捕らわれの身。



「城崎さん?」
遠慮がちに開けられたカーテンから見慣れた顔がのぞく。
「あ…先生。どうしたんですか、青い顔して。」
「どうしたって…君が倒れたって聞いたから、急いで……大丈夫?」
「ただの貧血ですよ。」
「そう…無事なら良かった…。」

この箱庭に私たちは囚われている。言葉も、気持ちも体も、鎖につながれている。
限られた動きしか取れないこの狭い世界で、私はもがく。
外の世界では意味がない。もっともっと、この世界の彼が欲しい。

曖昧に、それでも着実に進行していく病。
貪欲に彼を求めるこの病。
きっと、倒れたのだってその所為。

心配そうに顔を覗く彼が、薬のようで、麻薬のようだ。

「…大丈夫そうなら、僕はもういくよ。ゆっくり休んで。お大事に…。」
立ち上がって世界と今を区切る布をそっと開ける。
(この視線であなたを捕えてしまえればいいのに。)
胸の奥で燻ぶる思いが視線となって彼を捕える。
声にならない声で、好きだと呟いた。

カーテンの前で動きを止めた彼にどきりとした。
何か躊躇ったような背中を見つめる。
振り返る彼の表情はいつもの見慣れた、美しい顔で笑っていた。

「じゃあ、ね。」

刹那。
立ち上がるより先か、声をかけるが先か、姿の見えなくなった彼を引き留めるように声をかけた。

「せんせい。」

「え?」
カーテンの隙間から手を伸ばす。
世界と今をごちゃ混ぜにして、箱庭なんて壊してしまえればいいのに。
「城崎さん?」
箱庭がなければ、私たちはただの生徒で先生で。
それが今では足枷になった。口に出すこともできない関係が、私の思いを募らせる。
「開けないで。」

カーテンにかけられた手がそっと離れる。
かわりに伸ばした手に少し冷たい彼の手が触れた。
私と彼の体温が混ざる。この温度が彼のものかそれとも私のものなのか。
曖昧な体温と、確かに触れる手のひらの感触。
ふいに体に他人の体温が落ちる。カーテン越しに感じる体温は暖かいのにどこか冷たい。

「今は学校だからね。……ここまで…。」
そっと額に唇が触れる。布越しの優しいキス。
「じゃあ、お大事にね。」
離れていく腕が、体温が、私を現実へと引き戻す。



囚われた箱庭の住人は、気付かれないように、覚られないように、行動する。
気付かれてはならない、禁じられた、許されない恋。


箱庭の住人は恋をする。
自由に、愛に、世界に、恋をする。
それが鈍く体を突き刺す痛みとなって、相手を欲する想いへと変わる。




せんせい、わたしはあなたのすべてがほしくて、すべてをあげたいです。