伊熾さんより、真梨香と新菜の小説を戴きました。


新菜は可愛い。それは私だけが特別に感じるものではなくて、誰から見ても、だ。
「ね、見て、真梨香。花束貰っちゃった。」
両手一杯の、赤いアネモネの花を抱えて新菜が微笑む。その様はまるで天使に等しく、教会の聖母よりも見る者を救う。

…これは、私だけかもしれない。小さく自嘲した。
それだけ、新菜は特別なのだ。

「誰に貰ったの」

玄関に無造作に置かれた花束を見下ろして、複雑な形のブーツを脱ぐ新菜に尋ねる。

「さあ?」

くすくす、笑いながら新菜は小首を傾げた。

「知らない人だよ、27本あるんだって」
新菜だからなんだろうね、莫迦にしたように無造作に花束を掴む。数本が玄関に散らかった。

「に、い、な、なんだから、217本くれればいいのにね。真梨香、花瓶ってある?」

花だって安いものじゃないんだから、それは難しいんじゃない。思った言葉は飲み込んで、笑顔で「ないよ」と答えた。
知らない男を擁護する必要が、どうしてあるだろう。

「にしても、新菜が受け取るなんて珍しいね」
「そう?」
「そうだよ」

普段なら、そんなの見ない。

「真梨香がそういうなら、そうかも。」

ザア、普段あまり使わない硝子のコップに水を注いで、新菜はそれに赤いアネモネの花束を活ける。

「やっぱり、花瓶あった方がいいね」

にこ、新菜が悪戯に微笑む。
「買いに行こうよ、」



「ねえ、真梨香」


「…うん」

新菜の言葉は呪文。
差し出された手を素直に取って、散らばったままの赤いアネモネを踏み付けた。